対象エリア:名古屋(中区・栄・名古屋駅)をはじめ、愛知・東海地方で歯のお悩みを抱える方へ。
寝たきりの家族の口腔ケアで最初に決めるのは、磨き方ではなく姿勢と水の扱いです。名古屋(中区・栄・名古屋駅エリア)でも、起き上がれなくなってから口の中の問題が見つかる方は少なくありません。市が在宅のねたきり状態の方に行っている訪問歯科診査では、受けた1,728人のうち所見がなかった方は3.1%でした。
このページでは、ベッドから起き上がれない方の口腔ケアを、姿勢の作り方、水を使わない清掃の手順、むせたときの対応、記録の残し方、専門職に任せる範囲の順に整理します。手順を増やす話ではなく、やめてよいことと譲れないことを分ける話です。毎日のケア全体の考え方は介護が必要になった家族の口腔ケア|毎日の手入れの手順と通院が難しくなったときの備えにまとめています。
先に結論
- 上半身を30度ほど起こし、あごを軽く引く。これだけで喉へ流れ込む量が大きく減る
- 起こせないときは顔を横に向け、下になった側の頬の内側に汚れを集めて拭き取る
- 水は「足す」より「回収する」。歯ブラシは濡らしすぎず、泡立ちの少ないジェルを使う
- うがいをさせなくても清掃は成り立つ。スポンジブラシとガーゼでの拭き取りで仕上げる
- 1日1回でよい。本人が最も起きている時間帯に、観察から拭き取りまでを通して行う
- むせが続く、血がにじむ、白い膜が広がる、口が開かないの4つは専門職に相談する合図
| 起こせる角度 | 喉への流れ込み | やり方の目安 |
|---|---|---|
| 座位に近い(60度以上) | 起こしやすく最も安全 | 通常の手順でよい。あごが上がらないように枕で頭を支える |
| 30〜45度 | 姿勢を保てれば流れ込みにくい | ベッドを起こしてから頭の下に薄い枕を入れ、あごを軽く引かせる |
| 10〜30度しか起こせない | あおむけのままだと流れ込む | 顔を左右どちらかへ向ける。下になった側に汚れが集まるので最後にそこを拭く |
| まったく起こせない | 上向きは水が喉へ入りやすい | 側臥位(横向き)にして行う。水は使わず、ジェルと拭き取りだけで終える |
| 人工呼吸器・吸引を使用中 | 手技の影響が大きい | 家族だけで判断しない。訪問の歯科や看護の担当者に手順を決めてもらう |
ベッドの上では「汚れを外に出す」までが一工程
座って洗面台に向かえる方の歯みがきは、磨いて、ゆすいで、吐き出すところまでが自然につながります。ベッドの上ではこの最後の工程が抜けます。磨いて浮かせた汚れが口の中に残り、唾液と一緒に喉へ向かう形になります。 ですから寝たきりの方の口腔ケアは、「磨く」ではなく「浮かせて、集めて、外に出す」と考えてください。歯ブラシで汚れを浮かせたら、必ずスポンジブラシかガーゼで回収します。回収しないまま終えると、清掃したことがかえって不利に働くことがあります。 この考え方が分かると、道具の選び方も決まります。泡立つ歯みがき剤は回収しづらいため向きません。水を多く使うほど回収の難易度が上がります。歯ブラシの毛先が広がったものは汚れを浮かせる力が落ちるので、1か月を目安に交換します。歯ブラシ自体の選び方は自分に合う歯ブラシの選び方も参考になります。 口の中の細菌が唾液や食べ物と一緒に気管へ入って起こる肺炎があり、口の中の状態との関連は複数の研究で指摘されています。関係の整理は歯周病と誤嚥性肺炎のつながりにまとめました。清掃そのものより、清掃のしかたが結果を分ける場面だと考えてください。姿勢の作り方は3つの部品でできている
安全な姿勢は、角度、あごの向き、頭の支え、の3つで決まります。順に作ります。 はじめに角度です。ベッドの背を上げられるなら30度を目安にします。起こしすぎて体が前に崩れると、かえってあごが上がります。30度で姿勢が崩れる方は、無理に上げず横向きに切り替えてください。 次にあごの向きです。あごが上がった姿勢(頭が後ろに倒れた形)は、喉への通り道が開いて水が入りやすくなります。頭の下に薄い枕やタオルを入れて、あごを軽く引いた形にします。介助する人が本人の正面ではなく斜め前から手を入れると、自然にこの形を保ちやすくなります。 最後に頭の支えです。処置の途中で頭が動くと危険なので、利き手ではない側の手を後頭部か頬に添えて支えます。両手が塞がる場合は、2人で行うか、片側ずつ短く区切ります。 横向きにする場合は、下になった側の頬の内側に汚れと唾液がたまります。これは好都合で、最後にその場所を拭き取れば回収しやすくなります。向きは毎回同じにせず、日によって左右を替えると粘膜への負担が偏りません。
水を使わない手順を5段階で覚える
寝たきりの方には、水で流す工程を外した手順が扱いやすいです。順番は次のとおりです。 1つめ、観察します。口を開けてもらい、汚れがたまっている場所、歯ぐきの赤み、傷、白い膜、入れ歯があればその下の粘膜を見ます。痛みがある場所を先に見つけておくと、途中で急に嫌がられることが減ります。 2つめ、保湿します。乾いた汚れを乾いたまま擦ると粘膜が切れます。保湿ジェルを薄く塗って1〜2分おき、汚れをゆるめてから手を入れます。口の乾きが強い方は、この工程を省くと痛みの原因になります。乾きの背景は口が乾く原因とドライマウスの対策で扱っています。 3つめ、清掃します。歯と歯ぐきの境目に毛先を当て、小さく動かします。力はほとんど要りません。歯の表面のつるつる感より、歯ぐきのきわを優先してください。歯と歯の間に食べ物が残っていれば歯間ブラシを使います。使い方は歯間ブラシとフロスの使い分けにまとめています。 4つめ、回収します。スポンジブラシかガーゼで、浮いた汚れを拭き取ります。スポンジは水を含ませすぎず、固く絞った状態で使い、1回ごとに新しいものに替えます。頬の内側、舌の上、上あごも拭きます。舌の汚れの扱いは舌磨きの正しいやり方が参考になります。 5つめ、仕上げの保湿です。清掃後の口は乾きやすいため、薄くジェルを塗って終えます。塗りすぎると固まって逆効果なので、薄く広げる程度にします。 この5段階を1日1回通して行い、ほかの回は4つめの拭き取りだけにします。回数を増やして毎回が雑になるより、通して行う回を1つ作るほうが口の中は変わります。道具は「回収できるか」で選ぶ
寝たきりの方のケアでは、道具の良し悪しが「汚れを外に出せるか」で決まります。種類別に整理します。| 道具 | 役割 | 寝たきりの方で気をつける点 |
|---|---|---|
| ヘッドの小さい歯ブラシ | 汚れを浮かせる | 口が大きく開かないので小さめを選ぶ。子ども用でも代用できる |
| スポンジブラシ | 浮いた汚れを回収する | 水を固く絞る。綿球部分が外れないか毎回確認し、1回で使い捨てる |
| ガーゼ・口腔ケア用ウェットシート | 粘膜を拭く | 指に巻くときは噛まれない位置で。奥まで指を入れない |
| 保湿ジェル | 乾いた汚れをゆるめる | 塗るだけでは清掃にならない。必ず拭き取りと組み合わせる |
| 歯間ブラシ | 歯の間の食べ物を取る | サイズが合わないと歯ぐきを傷つける。初回は歯科で合わせてもらう |
| 吸引つき歯ブラシ | 水分と汚れを吸い出す | 吸引器の操作を含むため、導入と手順は専門職に相談する |
むせ・出血・白い膜が出たときの判断
ケア中に起こりやすい3つの場面について、やることを決めておくと慌てずに済みます。 むせたときは、まず手を止めて体を横に向け、落ち着くまで待ちます。背中を強く叩くのではなく、本人が咳をしやすい姿勢を作るほうが有効です。むせが毎回起こる場合は、水の量か姿勢に原因があることが多いので、次回から水をやめて拭き取りだけに切り替えます。それでも続くなら、飲み込む力の評価を含めて相談してください。噛む力や飲み込みの状態は検査で確かめられます。項目と保険の扱いは口腔機能低下症の検査で調べる7項目にまとめています。 歯ぐきから血がにじむのは、炎症がある場所に毛先が当たったときに起こります。出血したからやめるのではなく、その場所を数日続けて丁寧に清掃すると落ち着いてくることが多い部分です。ただし、押すと膿が出る、腫れが広がる、痛みで触れないという場合は清掃の範囲を超えています。歯ぐきの症状の見分けは歯ぐきが腫れた・出血するときの原因で扱っています。 舌や上あご、頬の内側に白い膜が広がり、拭くと赤くなって痛む場合は、口の中のカンジダが関わっていることがあります。乾きが強い方、入れ歯を使っている方、薬を多く飲んでいる方に起こりやすい変化です。見分け方と治療は口の中や舌が白い・ヒリつくときの原因で説明しています。
一日の組み立てと家族の分担
手順が分かっても、介護の一日の中にどう置くかが決まらないと続きません。組み立てのこつは、丁寧に行う回を先に決めて、残りを軽くすることです。 丁寧な回は、本人の覚醒がよい時間帯に置きます。多くの場合は朝の着替えや清拭のあと、または昼食(経管栄養なら昼の注入)の前が落ち着いています。夕方から夜は疲れが出て拒否が強くなる方が多いため、その時間に丁寧な回を置くと毎日が難しくなります。 残りの回は、拭き取りだけにします。口の中が乾いた状態を長く続けないことが目的なので、保湿と拭き取りで十分に役目を果たします。1日3回すべてを通して行う前提にすると、できなかった日が「失敗」になり、続けるのが苦しくなります。 分担も先に決めておきます。毎日行う人、週に一度点検する人、歯科や介護の担当者に連絡する人を分けると、気づきが共有されやすくなります。同居していない家族が担えるのは、道具の補充、記録の確認、受診や訪問の手配です。離れていても関われる部分があります。 介助する側の体も守ってください。ベッドの高さを上げてから始める、片側ずつ行う、1回を短く区切る。腰や肩を痛めると続けられなくなります。短く区切ることは本人の負担も下げるため、どちらにとっても有利な工夫です。 歯科医院に通える段階が残っているなら、定期的な清掃を受けておくほうが後の負担が減ります。何をするのかと所要時間は歯の定期検診では何をするのか、受診が止まると何が起きるかは定期検診に行かないと3年後・5年後に起きる変化にまとめています。見たことを残すと専門職に伝わる
家族が見つけた変化は、歯科や介護の担当者にとって重要な情報です。ただ「口の中が汚れている」では伝わりません。どこに、いつから、どんな変化があるかを残しておくと、訪問の歯科医師や歯科衛生士が来たときに短時間で的を絞れます。 名古屋市は「口腔観察シート」という様式を公開しています。歯、歯ぐき、舌、粘膜、入れ歯のどこに変化が出ているかを項目に沿って確認でき、市の歯と口の健康づくりのページからPDFで入手できます。項目をなぞるだけで記録の形になるので、何を見ればよいか分からない段階ではこれを使うのが早道です。 記録しておきたいのは、痛がる場所、食べる量や時間の変化、むせの回数、入れ歯が入らなくなった日、口が開きにくくなった時期です。口の衰えが始まる段階のチェック項目はオーラルフレイルの見つけ方にまとめています。家族が担う範囲と、任せてよい範囲
歯石は家庭での清掃では取れません。固く付着した沈着物は器具でしか除去できず、ここは歯科医師と歯科衛生士の役割です。名古屋市の訪問歯科診査のデータでは、受診者の51.2%に歯石の付着がありました。歯ぐきの病気(歯周炎)は76.7%で、むし歯の24.8%より大幅に多いという結果です。家庭での清掃は新しい沈着を作りにくくする役目で、すでに付いた分は専門職に渡してください。データの読み方は名古屋市の在宅ねたきり者訪問歯科診査のデータで詳しく扱っています。 通院できない方の自宅や施設で治療や清掃を行う歯科医療機関があります。内容と費用の仕組みは訪問歯科診療とはで説明しています。名古屋市には、40歳以上で在宅のねたきり状態にある方を対象に、歯科医師が訪問して歯科健診と保健指導を行う事業があり、申し込みは区の保健センターです。ただしこの事業は診査までで治療は含まれないため、見つかった問題の治療は別に手配します。相談先が分からない場合の窓口は名古屋市の障害者歯科・訪問歯科の相談窓口で確認できます。 専門職による清掃の中身は歯のクリーニング(PMTC)と歯石除去にまとめています。認知症があって口を開けてもらえない場合は進め方が変わるので、認知症の家族が歯みがきを嫌がるとき|拒否の理由別の声かけと口を開けてもらう進め方を、口から食べていない方は胃ろう・経管栄養の人の口腔ケア|食べていなくても必要な理由と乾いた汚れの落とし方を参照してください。よくある質問
寝たきりの人の口腔ケアは1日何回必要ですか
1日1回、観察から拭き取りまでを通して行う回を作れば役目を果たします。残りの回はスポンジブラシやガーゼで拭く程度で構いません。本人が最も起きている時間帯を選んでください。回数を増やして毎回が雑になるより、通して行う回を1つ確保するほうが口の中の汚れは減ります。ベッドから起こせない人はどんな姿勢で行いますか
横向き(側臥位)にして行います。あおむけで上を向いた姿勢は、水や汚れが喉へ流れ込みやすいためです。横向きにすると下になった側の頬の内側に汚れと唾液が集まるので、最後にその場所を拭き取れば回収しやすくなります。向きは日によって左右を替えると、粘膜への負担が片側に偏りません。頭の下に薄い枕を入れてあごを軽く引かせると、さらに流れ込みにくくなります。うがいができない人はどうやって仕上げますか
水で流さず、拭き取りで仕上げます。泡立ちの少ないジェルタイプの歯みがき剤を使い、歯ブラシで汚れを浮かせたあとスポンジブラシやガーゼで回収します。スポンジは固く絞って使い、1回ごとに新しいものへ交換してください。歯の周りだけでなく、頬の内側、舌の上、上あご、唇の内側も拭くと残る汚れを減らせます。口腔ケア中にむせてしまったときはどうすればよいですか
いったん手を止め、体を横に向けて落ち着くまで待ちます。背中を強く叩くより、本人が咳をしやすい姿勢を作るほうが有効です。毎回むせる場合は水の量か姿勢に原因があることが多いので、次回から水をやめて拭き取りだけに切り替えてください。それでも続くなら、飲み込む力の評価を含めて相談します。歯ぐきから血が出たら中止したほうがよいですか
炎症がある場所に毛先が当たって血がにじむ程度なら、やめずに数日続けると落ち着いてくることが多い部分です。清掃をやめるとかえって炎症が長引きます。ただし押すと膿が出る、腫れが広がる、痛くて触れないという場合は、家庭の清掃で解決する範囲を超えています。この3つが当てはまるときは歯科に相談してください。吸引つきの歯ブラシは家族が使ってよいですか
導入と手順は専門職に相談してから使ってください。吸引器の操作と組み合わせるため、吸引圧の設定や当て方を誤ると粘膜を傷つけることがあります。訪問の歯科衛生士や看護師に一度やり方を見せてもらい、その方の状態に合わせた手順を決めてもらうのが安全です。家族のケアだけで歯石は取れますか
取れません。歯石は歯の表面に固く付着しており、家庭の歯ブラシでは除去できません。名古屋市の訪問歯科診査では、受診者の51.2%に歯石の付着がありました。日々の清掃は新しい沈着を作りにくくする役目なので、すでに付いた分は歯科医師や歯科衛生士に任せてください。通院できなくなっても歯科に来てもらえますか
訪問して治療や清掃を行う歯科医療機関があり、自宅や施設で対応します。名古屋市には40歳以上で在宅のねたきり状態にある方を対象に歯科医師が訪問して健診を行う事業もあり、申し込みは区の保健センターです。担当のケアマネジャーに相談すると対応できる医療機関の情報が得られます。まとめ
寝たきりの家族の口腔ケアは、技術より段取りで結果が変わります。上半身を30度ほど起こしてあごを軽く引く、起こせないときは横向きにする。この姿勢を作るだけで、喉へ流れ込む量を減らせます。 手順は、観察、保湿、清掃、回収、仕上げの5段階です。水で流す工程は外して構いません。浮かせた汚れをスポンジブラシやガーゼで必ず回収することが、寝たきりの方のケアで最も譲れない部分です。 むせが毎回起こる、押すと膿が出る、白い膜が広がる、口が開かない。この4つは家庭での清掃の範囲を超えた合図として扱ってください。見たことを名古屋市の口腔観察シートなどに残しておくと、訪問の担当者に短時間で伝わります。 そして、歯石の除去や治療は専門職の仕事です。名古屋(中区・栄・名古屋駅エリア)や愛知・東海にお住まいの方は、区の保健センターか担当のケアマネジャーに相談し、毎日のケアと専門職の関わりを組み合わせてください。全体像は介護が必要になった家族の口腔ケア、予防の基本は予防歯科と定期検診で確認できます。参考・出典
- 名古屋市「歯と口の健康づくり」(在宅ねたきり者訪問歯科診査・口腔観察シート) https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/kenkoinfo/1009487/index.html
- 名古屋市「名古屋市健康福祉年報〈事業編〉 歯科保健(在宅ねたきり者訪問歯科診査実施件数)」名古屋市オープンデータカタログ(CC BY 4.0) https://data.bodik.jp/dataset/231002_1300050000_01
- 名古屋市「保健センター・分室のご案内」 https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/kenkoinfo/1009669/1015798/index.html
- 厚生労働省「介護予防マニュアル(口腔機能向上マニュアルを含む)」 https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html
- 厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/yobou/index.html
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「医療検討委員会作成マニュアル」 https://www.jsdr.or.jp/doc/doc_manual1.html
- 日本老年歯科医学会「学会誌・刊行物」 https://www.gerodontology.jp/publishing/index.shtml
- 日本歯科医師会「テーマパーク8020」 https://www.jda.or.jp/park/