対象エリア:名古屋(中区・栄・名古屋駅)をはじめ、愛知・東海地方で歯のお悩みを抱える方へ。
「入れ歯にしたら、思ったより食べにくい」「サ行やタ行が言いにくくなった」――新しく入れ歯(義歯=ぎし)を使い始めた方から、とてもよく聞かれる悩みです。せっかく作った入れ歯なのに食事や会話がおっくうになると、外出や人と会うことまで消極的になってしまう方もいます。
このページでは、入れ歯で食べにくい・話しにくいと感じる原因を「慣れの問題」と「入れ歯側の問題」に分けて整理し、自宅でできる練習のステップと、歯科で受けられる調整・処置までを、学会のガイドラインや国内外の研究をもとにわかりやすく解説します。
先に結論:食べにくさ・話しにくさは「時間」と「調整」で多くが改善します
悩んだときは、次の三つをまず押さえてください。- 新しい入れ歯には慣れの期間が必要です。食事はおおむね数週間、発音は多くの場合数週間以内に少しずつ改善していきます
- 痛み・傷・大きなガタつきは「慣れ」では解決しません。入れ歯側の問題なので、我慢せず歯科で調整を受けてください
- やわらかい食事から段階を上げる、音読で発音練習をするなど、自分でできる工夫で慣れは早められます
早見表:症状別の主な原因と対処の方向性
| 症状 | 考えられる主な原因 | 対処の方向性 |
|---|---|---|
| かむと痛い・傷ができる | 入れ歯の縁や内面が強く当たっている | 歯科での当たりの調整(削合) |
| 食べ物が入れ歯の下に入り込む | 適合不良、あごの骨(顎堤)のやせ | 調整・リライン(裏側の作り直し) |
| かむと入れ歯が動く・浮く | 吸着不足、かみ合わせの不調和 | かみ合わせ調整、リライン、安定しない場合は設計の見直し |
| サ行・タ行が言いにくい | 床(しょう=土台部分)の厚み、人工歯の位置、慣れの途中 | 音読などの発音練習、改善しなければ形の調整 |
| 味や温度がわかりにくい | 上あごを床が覆うことによる感覚の変化 | 慣れによる改善、必要に応じて金属床など薄い設計の検討 |
| 硬いものがかみ切れない | 入れ歯のかむ効率は天然歯より低いという性質 | 切り方・調理の工夫、必要に応じてインプラント併用の検討 |
なぜ入れ歯だと食べにくいのか(仕組み)
まず知っておきたいのは、入れ歯は天然の歯と同じかみ心地には戻らない、という前提です。 複数の文献レビューでは、総入れ歯の方のかむ効率(咀嚼能率=そしゃくのうりつ。食べ物をかみくだく効率)は、天然の歯がそろった方に比べて低下すると報告されており、入れ歯の方はかむ回数を増やすことでその差を補っているとされています。 これは入れ歯の構造上の性質です。天然の歯は歯根膜(しこんまく=歯の根と骨の間にあるクッション)でかむ力や食感を敏感に感じ取りますが、入れ歯は歯ぐきの粘膜の上に乗っているだけなので、力のかけ方の感覚が大きく変わります。また、上あごの総入れ歯では口蓋(こうがい=上あごの天井)を床が覆うため、食べ物の温度や舌ざわりを感じにくくなります。 もう一つの要因が、あごの骨の変化です。歯を失った部分の骨(顎堤=がくてい、入れ歯が乗る土手のような部分)は、時間とともに少しずつやせて平らになります(残存歯槽堤吸収=ざんぞんしそうていきゅうしゅう)。作ったときはぴったりだった入れ歯も、顎堤がやせるとすき間ができ、食べ物が入り込んだり、かむたびに動いたりするようになります。とくに下あごは吸収が進みやすく、「下の入れ歯が安定しない」と感じる方が多い理由の一つです。「慣れの問題」か「入れ歯側の問題」かを切り分ける
食べにくさ・話しにくさへの対処は、原因がどちらにあるかで変わります。慣れの問題であるサイン
新しい入れ歯を入れた直後の違和感、唾液が増える、しゃべると少し引っかかる感じがする、といった症状は、多くが時間とともに軽くなります。口の周りの筋肉や舌が入れ歯の形を覚え、無意識に押さえて使えるようになる神経筋協調(しんけいきんきょうちょう=筋肉と神経が動きを学習すること)には、数週間から数か月かかるとされています。とくに初めての総入れ歯では、焦らないことが大切です。入れ歯側の問題であるサイン
次のような症状は、慣れを待っても解決しにくく、調整や処置が必要です。- 特定の場所がいつも痛い、粘膜に傷や白い潰瘍ができている
- かむと入れ歯が大きく動く、パカパカ浮く
- 食べ物が毎回入れ歯の下に入り込む
- かみ合わせたときに一部の歯だけ強く当たる感じがする
- 何年も使ってきた入れ歯が最近急に合わなくなってきた
話しにくさの原因:発音と入れ歯の深い関係
入れ歯を入れて「サ行・タ行・ラ行が言いにくい」と感じるのは、偶然ではありません。これらの音は、舌の先を上あごの前歯の裏あたりに近づけたり当てたりして出す音です。入れ歯の床がこの部分を覆うと、舌が触れる位置や空気の通り道が変わり、音がこもったり、息が漏れたりします。 多くの場合、舌が新しい形を学習することで、発音は数週間以内に自然と改善していくと報告されています。ただし、床が必要以上に厚い場合や、人工歯(入れ歯の歯の部分)の並ぶ位置が舌の動きを邪魔している場合は、練習だけでは改善しきれないことがあり、形の修正が有効です。 発音の練習としては、次の方法が勧められます。- 新聞や本を毎日数分、声に出してゆっくり音読する
- 言いにくい音(サ行・タ行など)を含む言葉を繰り返し発音する
- 電話や人と話す予定の前に、少し声を出して口を慣らしておく
改善のステップ(食事編):やわらかいものから段階を上げる

- ステップ1(最初の数日):おかゆ、スープ、茶わん蒸し、豆腐など、ほとんどかまずに済むものから始めます
- ステップ2(1〜2週目):煮魚、やわらかく煮た野菜、バナナなど、軽くかむものへ。食材は小さめに切り、左右両方の奥歯で均等にかむよう意識します
- ステップ3(慣れてきたら):普通のかたさの食事へ少しずつ戻します。前歯でかみ切る動作は入れ歯が外れやすいため、奥歯を中心に使います
歯科で受けられる対応:調整からリライン・作り替えまで
自分での工夫で改善しない場合、歯科では原因に応じて次のような対応が行われます。 当たりの調整(削合=さくごう):痛い場所や傷に対応して、入れ歯の縁や内面をわずかに削って当たりを弱めます。保険で対応でき、数回の通院で落ち着くことが多い処置です。 かみ合わせの調整:一部の歯だけが強く当たっていると、かむたびに入れ歯が傾いて動きます。人工歯のかみ合わせを削って調整し、力が全体に分散するようにします。 リライン(床裏装=しょううらそう):顎堤がやせて内面にすき間ができた場合に、歯ぐきに当たる面を作り直してフィットさせる処置です。保険でも算定でき、作り替えずに使い続けられることがよくあります。 作り替え:破損や変化が大きい場合は新製します。なお保険では原則として、新しく作ってから6か月以内は同じ部位の入れ歯を保険で作り直せないルールがあります(けがや転居など一定の例外あり)。 それでも下あごの総入れ歯が安定しない場合には、インプラント(人工歯根)を2本埋めて入れ歯の支えにするオーバーデンチャーという選択肢もあります。従来の総入れ歯に比べて安定やかむ力、満足度が高まると複数の系統的レビュー(けいとうてきレビュー=多くの研究をまとめて評価した報告)で報告されていますが、外科処置と自費の費用が必要で、全身状態による制約もあります。 どの対応が適しているかは入れ歯の状態と口の中の変化によって変わるため、まずは今の入れ歯を作った歯科、通えない場合は入れ歯の調整に対応している近くの歯科に相談してください。名古屋市中区・栄・名古屋駅周辺をはじめ、愛知・東海エリアにも入れ歯の調整やリラインに日常的に対応している歯科は多くあります。受診の目安:こんなときは早めに歯科へ
- 同じ場所が数日以上痛む、粘膜に傷や潰瘍ができている
- 2週間以上たっても食事や会話のしづらさがほとんど改善しない
- 入れ歯が割れた・ヒビが入った・人工歯が取れた(自分で接着剤で直すのは厳禁です)
- 義歯安定剤なしでは使えない状態が続いている
- 口の中に白い斑点やヒリヒリする痛みがある(義歯性口内炎=ぎしせいこうないえん、カンジダという真菌による炎症の可能性)
よくある質問
新しい入れ歯に慣れるまでどれくらいかかりますか
個人差がありますが、食事はおおむね数週間、発音は多くの場合数週間以内に少しずつ改善するとされています。初めての総入れ歯では数か月かかることもあります。ただし痛みや傷は慣れでは治らないため、調整を受けてください。入れ歯で前歯からかみ切れないのはなぜですか
前歯に強い力をかけると、てこの原理で奥が浮き上がり、入れ歯全体が外れやすくなるためです。食材は小さく切り、奥歯の左右両側でかむのが基本です。話しにくさは練習で治りますか
サ行・タ行などの発音は、舌が入れ歯の形に慣れることで多くが自然に改善します。毎日の音読が練習として有効です。数週間続けても改善しない場合は、床の厚みや人工歯の位置の調整で良くなることがあります。義歯安定剤は使い続けてもいいですか
一時的な補助としては問題ありませんが、安定剤なしでは使えない状態は、入れ歯が合っていないサインです。すき間を安定剤で埋め続けるより、調整やリラインで適合を直すほうが根本的な解決になります。昔は普通に使えていた入れ歯が合わなくなってきました
あごの骨(顎堤)は年月とともにやせていくため、入れ歯は必ず少しずつ合わなくなります。リラインや調整で対応できることが多いので、我慢せず受診してください。入れ歯の寿命や作り替えの考え方は入れ歯(義歯)の種類と費用のページでも解説しています。食べにくさはインプラントにすれば解決しますか
下あごの総入れ歯では、インプラントで支えるオーバーデンチャーで安定やかむ力の改善が期待できると報告されています。ただし外科処置と費用が必要で、全員に適しているわけではありません。適応は診査診断によります。まとめ
入れ歯で食べにくい・話しにくいという悩みは、「慣れの途中」と「入れ歯側の問題」に分けて考えると対処が見えてきます。新しい入れ歯の違和感や発音のしづらさは、やわらかい食事からの段階アップや音読練習で、数週間かけて多くが改善していきます。一方、痛み・傷・大きなガタつき・食べ物の入り込みは慣れでは解決せず、当たりの調整・かみ合わせ調整・リラインといった歯科での対応が必要です。あごの骨は年々やせるため、長く使った入れ歯が合わなくなるのは自然な変化であり、我慢や義歯安定剤でしのぎ続けるより、早めの調整が結局は近道になります。改善しないつらさを「入れ歯だから仕方ない」とあきらめる前に、一度歯科で相談することをおすすめします。
参考・出典
- 日本補綴歯科学会「有床義歯補綴診療のガイドライン(2009改訂版)」(Minds 掲載)
- 日本補綴歯科学会「リラインとリベースの臨床指針 2023」
- 「歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008」(Minds 掲載)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット(歯・口腔の健康、咀嚼に関する解説)
- 歯科診療報酬点数表(有床義歯調整・有床義歯内面適合法・有床義歯修理)
- 総義歯の咀嚼能率・咀嚼回数に関する文献レビュー
- 義歯装着後の発音への影響と適応に関する臨床研究・レビュー
- インプラントオーバーデンチャーと従来総義歯の比較に関する系統的レビュー/メタアナリシス
- McGill Consensus Statement on Overdentures(2002, Gerodontology)
- 残存歯槽堤吸収(顎堤吸収)に関するレビュー・臨床研究
- 義歯性口内炎・カンジダに関する臨床研究・レビュー