歯ぎしり・食いしばりの原因と治療|マウスピース・ボトックスは効く?

対象エリア:名古屋(中区・栄・名古屋駅)をはじめ、愛知・東海地方で歯のお悩みを抱える方へ。

更新日:2026年7月1日監修:村井亮介(DDS, MSD(米国インディアナ大学大学院 補綴科修了)/日本補綴歯科学会 会員)

朝起きたら顎がだるい、こめかみが痛い、家族から「歯ぎしりの音がうるさい」と指摘された。あるいは集中していると気づいたら奥歯をギュッと噛みしめている――こうした「歯ぎしり・食いしばり」は、専門的にはブラキシズム(bruxism=無意識下で歯をすり合わせる・食いしばる運動全般)と呼ばれ、最近の国際的なコンセンサスでは「病気」というより「運動現象」として位置づけられています。

ブラキシズムは、それ自体が直ちに病気というわけではなく、健康な方にも一定の頻度で見られる現象です。ただし強さや頻度が大きい場合、歯のすり減り(咬耗=こうもう)、知覚過敏、ヒビ・破折、被せ物や詰め物の脱離・破損、顎関節の痛み、緊張型頭痛などのリスク因子になり得ます。睡眠時のブラキシズムは成人の約8〜12%、覚醒時のクレンチング(食いしばり)は約20〜30%にみられるとされ、決して珍しい現象ではありません。
歯ぎしり・食いしばりの原因と治療のイメージイラスト
このページでは、歯ぎしり・食いしばりにどんな種類があり、どんなサインで気づくのか、何が原因で起きるのか、そして治療としてのマウスピース(スプリント療法)・認知行動療法・ボトックス注射がそれぞれどこまで有効なのかを、国内外のガイドラインと研究をもとに整理します。症状の感じ方には個人差があり、最終的な診断は歯科医院での診査が必要です。セルフチェックの目安としてお読みください。

先に結論:歯ぎしり・食いしばりとの付き合い方

歯ぎしり・食いしばりへの対応は、世界的にも「強い治療を最初からしない」のが原則です。やり方をひと言でまとめると、次のようになります。
  • 歯と顎を守る「物理的なバリア」を作る → 就寝時のマウスピース(スプリント/ナイトガード)
  • 日中のクセに気づき手放す → TCH(上下の歯を当てるクセ)の是正と認知行動的アプローチ
  • 背景にある要因にアプローチする → ストレスケア、睡眠の質、必要に応じて睡眠時無呼吸の検査
  • 強い筋肉の緊張に対して限定的に → ボトックス(保険適用外、適応を選んで)
  • 歯のすり減り・破折が大きい場合 → 必要最小限の補綴で咬合を整える
ブラキシズムを「ゼロにする」ことを目標にしないのも、近年の重要な考え方です。完全に止めることは難しく、また弱いブラキシズムには咀嚼筋の保護的な役割があるとする見方もあります。目指すのは「歯と顎が壊れない範囲にコントロールする」ことです。

歯ぎしり・食いしばりの2つの種類

ブラキシズムは、国際的なコンセンサス(2018年・2024年改訂)で覚醒時と睡眠時の2つに大きく分けられています。原因も、最適な対処も少しずつ異なるため、まずここを見分けるのが出発点です。

覚醒時ブラキシズム(AB=Awake Bruxism)

日中、起きているあいだに無意識のうちに上下の歯を当てる・食いしばる・噛みしめる現象です。多くの場合、強い「ギリギリ」というすり合わせ運動ではなく、静かなクレンチング(食いしばり)として現れます。
  • パソコン作業・スマホ操作・運転中など、集中しているときに起きやすい
  • ストレス・緊張・不安・怒りといった情動と関連する
  • 本人は気づきにくく、頬の内側に歯型がついている/舌の縁が波打っているなどの所見で発覚することが多い
  • 強い「歯ぎしり音」は基本的に出ない(クレンチング中心)
覚醒時ブラキシズムの主役は、上下の歯を必要もないのに長時間触れ合わせてしまうクセ=TCH(Tooth Contacting Habit)です。本来、上下の歯は会話や咀嚼のときを除いて1日のうち合計20分も触れ合っていないとされます。それが長時間触れていると、咬筋・側頭筋に持続的な負担がかかり、顎の疲れや頭痛につながります。

睡眠時ブラキシズム(SB=Sleep Bruxism)

睡眠中に起きるブラキシズムで、ICSD(睡眠障害国際分類)でも独立した項目として扱われています。覚醒時とは違い、「ギリギリ」「ギシギシ」というすり合わせ運動(グラインディング)が中心で、家族に音を指摘されて気づくことが多いタイプです。
  • 就寝中に強いリズミカルな咀嚼筋活動(RMMA=rhythmic masticatory muscle activity)が反復して起きる
  • 音の出る「グラインディング」と、音の出にくい「クレンチング」がある
  • 浅い睡眠(ノンレム睡眠ステージ1〜2)への移行時に出やすい
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)・胃食道逆流症(GERD)・特定の薬剤・喫煙・カフェイン・飲酒と関連が報告されている
  • 朝の顎のこわばり、起床時頭痛、日中の眠気を伴いやすい
覚醒時と睡眠時の両方が同時に起きていることも珍しくありません。日中のクセが強い方は夜間にも筋活動が大きくなりやすく、両者を分けつつ並行して対策するのが現実的です。

タイプ別早見表

種類主な現れ方気づき方主な対策
覚醒時ブラキシズム(AB)日中のクレンチング、TCH頬の歯型/舌の波打ち/集中時の食いしばり自覚TCH是正/認知行動的アプローチ/生活指導
睡眠時ブラキシズム(SB)就寝中のグラインディング・クレンチング家族の指摘/朝の顎のこわばり/起床時頭痛ナイトガード/睡眠衛生/必要に応じ睡眠検査
両方混在型日中と夜間の両方で筋活動が高い歯の摩耗が進行/補綴物の繰り返す破損マウスピース+TCH是正+背景因子の評価

自覚症状とサイン:こんな所見があれば疑う

歯ぎしり・食いしばりは、本人が気づきにくいのが特徴です。次のサインが複数当てはまる場合、ブラキシズムが背景にある可能性があります。

口の中・歯のサイン

  • 歯の咬む面が平らにすり減っている、エナメル質の艶が失われている(咬耗)
  • 前歯の先がギザギザでなく、まっすぐ削れている
  • 奥歯のエッジに小さな欠け(チッピング)が増えてきた
  • 歯にヒビ(クラック)が見える、噛むと特定の歯がピリッと痛む
  • 知覚過敏が出てきた(冷たいものでしみる、歯ブラシでしみる)
  • 被せ物・詰め物が繰り返し外れる/割れる
  • 歯と歯ぐきの境目がくさび状にえぐれている(くさび状欠損/アブフラクション)
  • 頬の内側に白い線状の歯型がついている(白線=はくせん/linea alba)
  • 舌の縁が波打っている(舌圧痕=ぜつあっこん/scalloped tongue)
  • 下顎の内側に骨の盛り上がりがある(下顎隆起=かがくりゅうき/torus mandibularis)

顎・筋肉・全身のサイン

  • 朝起きたとき顎・こめかみがこわばっている、だるい
  • 頬のエラ(咬筋)を押すと痛い、エラが張ってきた
  • こめかみの頭痛、起床時頭痛、緊張型頭痛が増えた
  • 首こり・肩こりが慢性化している
  • 顎の開け閉めで「カクッ」と音がする、口が開きにくい
  • 家族から寝ているときの歯ぎしり音を指摘される
  • 日中、ふと気づくと上下の歯が触れている
特に補綴物(クラウン・インレー・ブリッジ・インプラント上部構造)の繰り返す破損やセラミックの欠けは、強いブラキシズムが背景にある代表的なサインです。「セラミックが弱い」のではなく、想定を超える力がかかり続けている可能性を疑います。 → 関連記事:顎が痛い・口が開きにくい原因(顎関節症)と対処
歯ぎしり・食いしばりの原因と治療の解説イラスト

原因:何が歯ぎしり・食いしばりを引き起こすのか

かつては「噛み合わせのズレが歯ぎしりの主な原因」と説明されることもありましたが、現在の国際的なコンセンサスでは、噛み合わせの形態だけでブラキシズムを説明する考え方は支持されていません。むしろ、中枢性(脳・自律神経・睡眠)の要因と、心理社会的要因が大きな比重を占めると考えられています。

中枢性・睡眠関連の要因

睡眠時ブラキシズムは、浅い睡眠から深い睡眠へ移行する際の「微小覚醒(マイクロアラウザル=睡眠中に脳波・心拍・筋活動が一瞬高まる現象)」と密接に関連します。覚醒の高まりに連動して交感神経が活性化し、咀嚼筋にリズミカルな活動(RMMA)が起き、結果として歯ぎしりとして観察されます。
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS):気道が狭くなって生じる覚醒反応に連動してブラキシズムが増えるとする報告がある
  • 胃食道逆流症(GERD):夜間の逆流による覚醒に伴い、咀嚼筋活動が増えることがある
  • 特定の薬剤:SSRI・SNRIなど一部の抗うつ薬、精神刺激薬で歯ぎしりが誘発される報告がある
  • 嗜好品:喫煙・大量のカフェイン・飲酒は睡眠時ブラキシズムのリスク因子
  • 夜間の覚醒を起こす状況全般:シフトワーク、寝室の温度・光・騒音

心理社会的要因(ストレス・情動)

覚醒時ブラキシズムの主な背景はストレス・緊張・不安です。締め切り前、緊張する会議中、運転中、ゲーム中など、集中・緊張する場面で歯を食いしばる方は少なくありません。慢性的なストレス状態は、夜間のブラキシズムの強さにも関与すると報告されています。 ただし「ストレスをなくせば歯ぎしりが止まる」というほど単純ではなく、ストレスは増悪因子の一つとして位置づけられます。

噛み合わせ・歯列の要因(限定的)

噛み合わせの早期接触や明らかな不正咬合がブラキシズムの直接の原因とする科学的根拠は乏しいというのが現在の主流の見方です。一方で、特定の歯だけに強い力がかかり続ける状態は、歯のヒビや補綴物破損のリスクを高めるため、咬合の精密な調整が二次予防として有効な場合があります。「咬合が原因」ではなく「咬合が結果を左右する」と捉えるとわかりやすいです。

その他

  • 遺伝的素因:双子研究で睡眠時ブラキシズムには一定の遺伝性が示されている
  • 小児・思春期では発達過程の一部として出現し、成長とともに減ることが多い
  • パーキンソン病など神経疾患に伴う二次性ブラキシズム

治療(1):スプリント療法/マウスピース(ナイトガード)

歯ぎしり・食いしばり対策の第一選択は、就寝時に装着するマウスピース(スプリント、ナイトガード、オクルーザルアプライアンス)です。歯と歯のあいだに硬質な層を介在させることで、次の役割を果たします。
  • 歯のすり減り・破折を防ぐ「物理的なバリア」
  • 上下の歯の接触パターンを変えて、過剰な側方力を分散させる
  • 顎関節と咀嚼筋の負担を一時的に減らす
  • 朝のこわばり・頭痛が和らぐケースが多い

スプリントの種類

種類特徴向いている方
ハードスプリント(硬質レジン)耐久性が高く咬合接触を精密に設計できる、調整可能強い歯ぎしり、補綴物が多い方、長期使用
ソフトスプリント(軟質)柔らかく装着感が良いが噛みしめを誘発するとの報告も短期使用、軽症、初めての方の試用
NTI型(前歯接触型)前歯部のみで接触させ咬筋活動を抑制強いクレンチング・緊張型頭痛、限定的に
市販の熱可塑性タイプ安価だが咬合が合わずズレや痛みを生じやすい応急的・短期のみ、長期使用は推奨されない
スプリント療法は、歯のすり減りや補綴物破損を予防する「歯を守る効果」については確立されています。一方、ブラキシズム自体(咀嚼筋活動の総量)を恒常的に減らすかどうかは研究により結果が分かれており、「歯ぎしりが治る」というより「歯ぎしりの被害を抑える」道具と理解するのが正確です。

注意点

  • 就寝中だけ使うのが基本(24時間装着は推奨されません)
  • ソフトタイプを長期に使うと、かえって咬みしめが強くなる場合がある
  • NTI型は適応を選び、原則として歯科医師の管理下で使用
  • 合っていないものを使い続けると咬み合わせが変わるリスクがある
  • 定期的に咬耗のチェックと再調整が必要
  • 睡眠時無呼吸症候群が背景にある場合、スプリントの種類によっては気道を狭めることがあり配慮が必要
費用の目安は、保険診療のハードスプリントで型取り含め総額おおむね5,000〜8,000円程度(3割負担)。自由診療の精密設計タイプは30,000〜60,000円程度が一般的です。

治療(2):認知行動的アプローチ・TCH是正

覚醒時ブラキシズムの中心的な対策は、日中の「歯を当てているクセ」に自分で気づき、手放していく訓練です。スプリントだけでは対応しきれない部分を担う、もう一つの柱となります。

TCH(Tooth Contacting Habit)の是正

  • 「歯を離す」と書いた付箋を、PC・スマホ・冷蔵庫・車のハンドルなど目に入る場所に貼る
  • 付箋を見るたびに、上下の歯を1〜2mm離し、肩の力を抜き、深く呼吸する
  • 「唇を閉じて、歯は離す」を口の安静位(上下の歯のあいだに2〜3mmの自然な隙間がある状態)として意識する
  • 1日数回、20〜30秒の「リセット」を意図的に挟む
これは「気づきベースの行動変容(habit reversal training)」と呼ばれる手法で、随伴的にバイオフィードバックアプリ(噛みしめを音や振動で知らせるスマホアプリ等)を併用する研究も増えています。

認知行動療法(CBT)とリラクセーション

慢性のストレス・不安が背景にある場合、認知行動療法・漸進的筋弛緩法・マインドフルネス・自律訓練法などが咀嚼筋の緊張を下げる効果を持つことが報告されています。睡眠衛生(決まった時間に寝起きする、寝る前のスマホ・カフェイン・アルコールを控える、寝室を暗く静かに保つ)も併せて整えます。 特に「日中の食いしばり+緊張型頭痛+肩こり」がセットになっているタイプの方は、スプリント単独より、TCH是正+リラクセーションを併用したほうが楽になりやすい印象です。

治療(3):ボトックス(咬筋ボツリヌス療法)は効くか

近年、強い食いしばりや咬筋肥大に対してボトックス(ボツリヌストキシンA製剤)を咬筋に注射する治療が広く行われています。ボツリヌストキシンは神経筋接合部でアセチルコリンの放出を抑え、筋肉の収縮力を一時的に弱める作用があります。

期待できる効果

  • 咬筋の最大収縮力(噛みしめる強さ)が低下する
  • 朝の顎のこわばり・咬筋痛・緊張型頭痛が軽減するという報告がある
  • 咬筋肥大(エラ張り)の見た目の改善(美容目的でも用いられる)
  • 効果は1回の注射で通常3〜6か月持続し、繰り返し投与する

限界と注意点

ボトックスは「強い力を物理的に出せなくする」アプローチであり、ブラキシズムという運動現象そのもの(咀嚼筋活動の発生頻度)を減らすかどうかは研究によって結果が一致していません。複数のシステマティックレビューは、痛みや筋肥大に対する効果はある程度認める一方、適応・投与量・長期安全性についてさらなる質の高い研究が必要としています。
  • 日本では保険適用外(自由診療)で、1回あたりおおむね30,000〜80,000円程度が目安
  • 効果は一時的で、繰り返しの注射が必要
  • 注射部位の内出血、まれに表情筋への波及、咬む力の低下による食事のしづらさ
  • 長期・高用量での骨密度低下(咬筋への力学的刺激減少による下顎の骨の変化)を指摘する報告がある
  • 妊娠中・授乳中・神経筋疾患のある方は原則禁忌
  • 適切な解剖学的知識のもと、経験のある医師・歯科医師が行うこと
ボトックスは「最初に試す治療」ではなく、スプリント・TCH是正・生活指導を行っても咬筋痛や咬筋肥大が強く残る場合に、選択肢の一つとして検討するものと位置づけるのが妥当です。

治療(4):咬合調整・補綴的アプローチ

「噛み合わせを大きく変えればブラキシズムが治る」というアプローチは、現在は支持されていません。健康な歯を予防的に削ることは推奨されず、初手で大きな補綴を行うことも避けます。 ただし、次のような状況では限定的な介入が必要になります。
  • すでに歯が大きく咬耗し、咬み合わせの高さ(垂直的な咬合高径)が失われている
  • 強い側方力で特定の歯が痛む、ヒビが繰り返し入る
  • 補綴物の破損が頻発し、咬合接触の設計を見直す必要がある
  • 知覚過敏・くさび状欠損が広範に進んでいる
この場合、咬合接触のごく一部だけを精密に調整する咬合調整、または必要最小限の補綴(咬合面の保護のためのクラウン/オンレー)で「壊れない咬み合わせ」を再構築します。判断には、ナイトガードによる症状の変化、模型上での咬合分析、必要に応じて咀嚼筋筋電図やT-Scan(咬合圧解析装置)などの精密検査を併用します。 → 関連記事:噛むと痛いときの考え方

治療法の比較

治療法主な目的歯ぎしり自体を減らすか費用の目安位置づけ
ハードスプリント(保険)歯と顎の保護限定的(被害軽減が主)5,000〜8,000円第一選択
精密スプリント(自由診療)歯と顎の保護、咬合設計限定的30,000〜60,000円選択肢
TCH是正・認知行動的アプローチ覚醒時のクセ改善覚醒時には有効指導料程度第一選択(併用)
睡眠衛生・ストレスケア背景要因の改善間接的に減らす可能性基盤
ボトックス(咬筋)咬む力・筋肥大の低減運動頻度は不変、強度は低下30,000〜80,000円/回難治例の選択肢
咬合調整・補綴歯と補綴物の保護減らさない症例により大きく異なる必要最小限で
睡眠時無呼吸の治療(CPAP等)背景の睡眠呼吸障害の治療結果的に減ることがある保険診療該当例で重要

セルフケア:今日からできること

スプリントや専門治療と並行して、自宅でできるセルフケアを整理します。

やったほうがよいこと

  • 日中、「歯を離す」を意識するためのリマインダーを身近に置く
  • こめかみ・頬(咬筋)を蒸しタオルで5〜10分温める/軽くマッサージする
  • 顎をゆっくり大きく開閉するストレッチを1日3セット、痛みのない範囲で
  • 寝る前1時間はスマホ・PCを控え、寝室を暗く静かに保つ
  • カフェイン・アルコール・喫煙を控える(特に夜間)
  • 横向き・うつ伏せ寝で顎に体重がかからないよう、寝姿勢を見直す
  • マウスピースは指示どおりに装着し、定期的に咬耗をチェックしてもらう
  • 朝、顎のこわばり・頭痛が続くなら、いびきや無呼吸がないか家族に確認してもらう

避けたほうがよいこと

  • 硬いせんべい・スルメ・氷を噛む、ガムを長時間噛む
  • 市販の安価な熱可塑性マウスピースを自己流で長期に使う
  • 「歯を強く噛みしめる筋トレ」のような行為(咬筋をさらに大きくする)
  • カフェイン・アルコールを夜遅くに摂る
  • 痛みがあるのに無理にスポーツマウスピースで対応しようとする
  • SNS等で「歯ぎしりは咬合を削れば治る」という情報を鵜呑みにして、健康な歯を予防的に削る

放置するとどうなるか

歯ぎしり・食いしばりは「すぐに命に関わる」ものではありませんが、長期間放置すると次のような問題が積み重なります。
  • 歯のすり減りが進み、咬み合わせの高さが低くなる(顔の下半分が短く見えるようになる)
  • 歯にヒビが入り、ある日突然「縦に割れて抜歯」となる(特に神経を取った歯で起きやすい)
  • 知覚過敏・くさび状欠損が進む
  • 被せ物・詰め物・インプラントの補綴物が繰り返し破損する
  • 顎関節症(咀嚼筋痛タイプ・関節円板ズレタイプ)に移行する
  • 緊張型頭痛・肩こり・首こりが慢性化する
  • 睡眠の質が低下し、日中の眠気・集中力低下につながる
特に「縦のヒビ(歯根破折)」は、起きてしまうと多くの場合抜歯となります。神経を取った歯はもろくなりやすいため、強いブラキシズムがある方では、被せ物の設計や咬合面の保護に普段から配慮する必要があります。 → 関連記事:顎が痛い・口が開きにくい原因(顎関節症)と対処

受診の目安

次のような場合は、早めに歯科を受診してください。
  • 家族から歯ぎしり音を指摘された、自分で食いしばりを自覚している
  • 朝起きたとき顎・こめかみがこわばっている、頭痛がする
  • 歯のすり減りやヒビが進んでいる気がする、知覚過敏が増えた
  • 被せ物・詰め物が短期間で繰り返し外れる/割れる
  • 強いいびき・睡眠時の無呼吸を家族に指摘されている(耳鼻科・睡眠外来との連携が必要なことがあります)
  • エラの張りが気になり、咬筋を押すと痛い
歯科でできること:問診・口腔内診査(歯の咬耗、頬粘膜の白線、舌の圧痕、補綴物の状態の確認)、咬筋・側頭筋の触診、顎関節の評価、必要に応じてレントゲン・CT・咬合分析。背景に睡眠時無呼吸が疑われる場合は、睡眠外来や耳鼻咽喉科との連携を案内します。

よくある質問(FAQ)

Q1. マウスピースは一生つけ続けないといけませんか?

症状や原因によります。覚醒時ブラキシズムへのアプローチが進んで日中のクセが落ち着いてくると、夜間の筋活動も穏やかになることがあります。一方、強い睡眠時ブラキシズムが続く方では、歯を守るために長期に装着を続けたほうが安全なケースもあります。定期的に咬耗をチェックしながら見直します。

Q2. 市販のマウスピースで代用できますか?

応急的にはともかく、長期的にはおすすめできません。サイズや咬合が合わないものを使い続けると、かえって咬み合わせが変わったり、ソフトタイプでは噛みしめが強くなったりすることがあります。歯科で型取りして作るスプリントをお使いください。

Q3. ストレスをなくせば歯ぎしりは止まりますか?

ストレスは重要な増悪因子ですが、原因のすべてではありません。中枢性・睡眠関連・遺伝的・薬剤・嗜好品など複数の要因が重なって起きるため、「ストレスゼロ=歯ぎしりゼロ」とはなりません。ただしストレスケアと睡眠の改善は、治療効果を底上げします。

Q4. ボトックスを打てば一発で治りますか?

ボトックスは咬筋の収縮力を弱め、筋痛や咬筋肥大の見た目を改善しますが、ブラキシズムという運動現象自体をなくすわけではありません。効果は3〜6か月で薄れ、繰り返しの注射が必要です。最初の選択肢ではなく、保存治療で改善しきらない場合に検討するものと位置づけられます。

Q5. 歯ぎしりは「咬み合わせを削れば治る」と聞きました。本当ですか?

現在のコンセンサスではそうではありません。健康な歯を予防的に削ることは推奨されず、咬合調整は歯のヒビや補綴物破損があるときに必要最小限で行うものです。広範囲に削る「咬合再構成」は、すでに咬合高径が大きく失われている等の限られたケースで、専門的な診査のもとに検討します。

Q6. 子どもの歯ぎしりも治療が必要ですか?

小児・思春期の歯ぎしりは発達過程でよく見られ、多くは成長とともに減ります。乳歯の咬耗が強い・永久歯まで影響が出ている・睡眠時無呼吸を疑ういびき呼吸がある場合は、小児歯科や耳鼻咽喉科への相談を検討してください。

Q7. いびきがひどく、朝起きると顎が疲れています。関係ありますか?

関係する可能性が高いです。睡眠時無呼吸症候群とブラキシズムは関連が報告されており、無呼吸の治療(CPAP等)でブラキシズムが減るケースもあります。歯科で口腔内のサインを確認しつつ、必要に応じて睡眠外来・耳鼻咽喉科で睡眠検査を受けてください。

Q8. インプラントを入れていますが歯ぎしりがあります。問題ありますか?

強いブラキシズムはインプラントの上部構造(被せ物)の破損・ネジのゆるみ・周囲骨への過大な力のリスク因子になります。インプラントが入っている方では、ナイトガードの装着が特に重要です。 夜間の力の影響は、起床時の顎のだるさとして現れることがあります。朝に強く出る症状の見立ては朝起きると顎が痛い・だるいときの考え方にまとめました。

まとめ

歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)は、それ自体を病気とみなすのではなく、健康な方にも見られる「運動現象」と理解するのが現代的な考え方です。問題になるのは、強さ・頻度が大きくなったときに、歯の摩耗・破折、補綴物の破損、顎関節症、緊張型頭痛などの被害が積み重なる場合です。 対処の第一歩は、自分が覚醒時タイプか睡眠時タイプか、その両方かを見分け、就寝時のマウスピース(スプリント)で歯と顎を物理的に守ること、そして日中はTCH是正を中心に「上下の歯を離す」習慣を取り戻すことです。背景に強いストレス・睡眠時無呼吸・特定の薬剤などがある場合は、それぞれの対策と連携します。 ボトックスは咬筋痛や咬筋肥大に対する選択肢として有用ですが、ブラキシズムを根本的に治すものではなく、保険適用外で繰り返しの投与が必要なため、第一選択ではなく難治例の選択肢として位置づけます。「咬み合わせを大きく削れば治る」というアプローチは現在は支持されておらず、補綴的介入は必要最小限にとどめます。 歯のすり減りやヒビ、繰り返す補綴物の破損、朝の顎のこわばりや頭痛が気になっている方は、一度歯科で口腔内のサインを確認することをおすすめします。当院では米国大学院で補綴学を修めた歯科医師が、歯・咬み合わせ・顎関節・ブラキシズムを一つの問題として診ていきます。 なお、夜間のナイトガードとは別に、コンタクトスポーツをされる方には競技用の保護装置という選択肢もあります。詳しくは「スポーツマウスガードとは|市販とオーダーメイドの違い・費用・作り方」で解説しています。 判断に迷う場合は、顎が痛い・口が開きにくい原因(顎関節症)と対処顎がカクカク鳴るけど痛くないにまとめています。 食いしばりによる頭痛や肩こりが強い方は、食いしばりで頭痛・肩こりが起きる仕組みと対策 でくわしく解説しています。 歯ぎしり・食いしばりの負担が続くと、あごの痛みや開きにくさにつながることがあります。症状が自然に落ち着くのか気になる方は 顎関節症は自然に治る?治し方とセルフケア・治るまでの期間 もあわせて参考にしてください。 なお、起床時の顎のだるさが主な症状という方は、朝起きると顎が痛い・だるい原因と対処もあわせてご覧ください。睡眠中の癖を疑うサインを具体的に整理しています。 装置そのものについて、保険で作れる条件、費用の目安、日々の手入れ、何年で作り替えるのかを個別にまとめました。ナイトガード(歯ぎしり用マウスピース)の費用・保険・手入れと寿命をご覧ください。

参考・出典

  • Lobbezoo F, et al. International consensus on the assessment of bruxism: Report of a work in progress.(ブラキシズムの国際コンセンサス、2018/2024改訂)
  • 日本顎関節学会「顎関節症診療ガイドライン」
  • 日本補綴歯科学会「ブラキシズムの診療指針」
  • American Academy of Sleep Medicine, International Classification of Sleep Disorders(ICSD)— Sleep Bruxism
  • Cochrane Systematic Review: Occlusal splints for the management of sleep bruxism
  • Manfredini D, et al. Systematic reviews on bruxism epidemiology and management
  • Botulinum toxin for the treatment of bruxism — systematic reviews and meta-analyses(Journal of Oral Rehabilitation 等)
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯ぎしり(ブラキシズム)」
  • National Institute of Dental and Craniofacial Research (NIDCR), Bruxism / TMJ Disorders
歯ぎしり・食いしばりの原因と治療に関する予防・ケアのイメージイラスト

監修:村井 亮介(DDS, MSD/米国インディアナ大学大学院 補綴科修了)
Indiana University 大学院 補綴科修了/ACP・ITI・AO・日本補綴歯科学会 会員。名古屋(中区・栄・名古屋駅エリア)を拠点に、愛知・東海地方で歯のお悩みを抱える方へ向けて情報を発信しています。理念は「10年後も削り直さない治療」。

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