親知らず抜歯と神経麻痺のリスク|下歯槽神経・CT検査の意味

対象エリア:名古屋(中区・栄・名古屋駅)をはじめ、愛知・東海地方で歯のお悩みを抱える方へ。

更新日:2026年7月4日監修:村井亮介(DDS, MSD(米国インディアナ大学大学院 補綴科修了)/日本補綴歯科学会 会員)

「親知らずを抜くと、まれに唇がしびれることがあります」――抜歯前の説明でそう聞いて、不安になって調べている方は多いはずです。あるいは「神経に近いのでCTを撮りましょう」と言われ、追加の検査が本当に必要なのか気になっている方もいるでしょう。名古屋市内(中区・栄・名古屋駅周辺など)の歯科でも、下の親知らずの抜歯前にはこの説明がほぼ必ず行われますし、神経に近い難しい症例は愛知・東海エリアの大学病院や総合病院の口腔外科へ紹介されることも珍しくありません。

このページでは、親知らずの抜歯でなぜ神経麻痺(しんけいまひ=神経が傷ついて感覚が鈍くなること)が起こりうるのか、その頻度はどのくらいか、歯科用CT(CBCT)検査にはどんな意味があるのか、そして万が一しびれが出たときの経過と対応までを、日本口腔外科学会や国内外の研究データをもとに整理します。
親知らず抜歯と神経麻痺のリスクのイメージイラスト
なお、リスクの大きさは親知らずの埋まり方と神経との距離によって一人ひとり大きく異なり、最終的な評価はレントゲンやCTによる診査診断(しんさしんだん)が必要です。親知らず全体の基礎知識は、親知らずの抜歯|抜くべき基準・流れ・費用のページにまとめています。

先に結論:永続的な麻痺はまれ。ただし「神経に近い歯」ではCT評価が重要

不安を整理するために、先に要点をまとめます。
  • 下の親知らずの抜歯後に下唇やあごのしびれが出る頻度は、一時的なものでおおむね0.5〜8%程度、半年以上残る永続的なものは1%未満(おおむね0.1〜1%)と報告されています。多くは数週間〜数か月で回復するとされています
  • リスクは全員同じではありません。歯の根が神経の通る管(下顎管)に近い・接している症例ほど高くなり、離れていればごく低くなります
  • パノラマレントゲンで神経との近接が疑われる場合に歯科用CT(CBCT)で立体的な位置関係を確認することは、リスクを事前に予測し、術式を工夫して回避するために国際的にも推奨されている流れです
つまり「神経麻痺が怖いから抜かない」でも「気にせず抜く」でもなく、自分の親知らずが神経とどのくらい近いのかを画像で確認し、リスクに応じた方法を選ぶことが現実的な向き合い方です。

早見表:神経との位置関係別にみるリスクと対応の目安

タイプ画像での所見麻痺リスク検査・対応の目安備考
A根が下顎管から明らかに離れているパノラマ評価のみで抜歯可能なことが多い上の親知らずは下歯槽神経のリスクなし
B根の先が下顎管に近い(重なりが疑われる)低〜中CBCTで距離・位置を3次元的に確認頬側か舌側かで対応が変わる
C根が下顎管に接しているCBCT必須級。分割方法を工夫し慎重に抜歯口腔外科紹介が多い
D根が下顎管を圧迫・巻き込んでいるコロネクトミー(歯冠切除術)等も選択肢抜かず経過観察という判断もある
E舌側の骨が薄い・遠心切開が必要な症例舌神経に注意切開・器具操作の工夫でリスク低減舌のしびれ・味覚の変化に関わる

(リスクの程度は一般的な傾向です。実際の評価は画像診断によります。)

なぜしびれが起こるのか:下歯槽神経と舌神経の位置を知る

下あごの骨の中には、下顎管(かがくかん)というトンネル状の管が通っており、その中を下歯槽神経(かしそうしんけい)が走っています。この神経は下あごの歯や下唇、あご先の皮膚の感覚を脳に伝える感覚の神経です。下の親知らず、特に横向きや深く埋まった埋伏智歯の根は、この下顎管のすぐ近くまで伸びていることがあり、抜歯の際に根が神経を圧迫したり、器具や歯の破片が触れたりすると、下唇やあごのしびれとして現れることがあります。 もう一つ知っておきたいのが舌神経(ぜっしんけい)です。舌の感覚と味覚に関わる神経で、下の親知らずの内側(舌側)の歯ぐきのすぐ下を走っています。骨の中ではなく軟組織の中を走るため個人差が大きく、抜歯時の切開や器具の操作で傷つくと、舌のしびれや味覚の変化が出ることがあります。頻度は下歯槽神経より低いものの、同様にまれに起こりうる合併症として説明されます。 大切なのは、これらの神経は感覚の神経であり、顔の表情を動かす神経(顔面神経)とは別だという点です。万が一麻痺が起きても「顔が動かなくなる」わけではなく、「触った感覚が鈍い・ピリピリする」という症状が中心です。 なお、麻痺のリスクが高いのは基本的に「下の」親知らずです。上の親知らずでは下歯槽神経のリスクはありませんが、代わりに上顎洞(じょうがくどう=鼻の横の空洞)との交通など別の注意点があります。埋まり方による難易度の違いは、横向き・埋まっている親知らず(埋伏智歯)の抜歯|難易度と流れで詳しく解説しています。

どのくらいの頻度で起こるのか:数字を正しく読む

下歯槽神経の麻痺(下唇・あごのしびれ)の頻度は、報告や対象症例によって幅がありますが、系統的レビューなどではおおむね次のように整理されています。
  • 一時的なしびれ:おおむね0.5〜8%程度。多くは数週間〜数か月で自然に回復するとされる
  • 半年以上続く永続的な麻痺:1%未満(おおむね0.1〜1%)
  • 舌神経の障害:一時的なものが0.1〜2%程度、永続的なものは0.1%前後とさらにまれ
ここで注意したいのは、この数字が「全症例の平均」だという点です。根が下顎管から離れている親知らずではリスクはこれよりずっと低く、逆にパノラマレントゲンで神経との重なりを示すサイン(根の先が下顎管に重なる、管の輪郭が途切れて見える、根が急に細く・黒く見えるなど)がある症例では高くなります。つまり平均値そのものより、「自分の歯がどちらのグループか」を画像で確かめることに意味があります。年齢が上がると骨が硬くなり抜歯の難易度が上がるため、リスクがやや高まる傾向も指摘されています。

CT(CBCT)検査の意味:リスクを「予測し、回避する」ための検査

パノラマレントゲンは全体を見渡すのに優れていますが、平面の画像であるため、根と下顎管が「重なって見える」だけでは、実際に接しているのか、頬側・舌側どちらにずれているのかまではわかりません。そこで用いられるのが歯科用CT(CBCT=コーンビームCT)です。歯科用に設計された、放射線量が医科用CTより少ないCTで、あごの骨を3次元的に映し出せます。 CBCTでわかる主なことは次のとおりです。
親知らず抜歯と神経麻痺のリスクの解説イラスト
  • 根と下顎管の正確な距離と、接しているかどうか
  • 神経が根の頬側・舌側・下方・根の間のどこを走っているか
  • 根の本数・曲がり方・肥大の有無
  • 周囲の骨の厚みや、嚢胞(のうほう)など病変の有無
これらの情報があると、歯をどの方向に分割すればよいか、どこまで骨を削るか、場合によっては抜歯以外の選択肢(後述のコロネクトミーや経過観察)を取るべきか、といった判断がしやすくなります。国内外のガイドラインでも、パノラマで神経との近接が疑われる場合にCBCTを追加する二段階の評価が標準的な流れとされています。撮影は数十秒程度で痛みはなく、保険適用となる場合の自己負担は3割でおおむね3,500円前後が目安です。 一方で、知っておきたい限界もあります。研究上は「CBCTを撮ったグループのほうが麻痺が確実に減る」とまでは証明されておらず、CTは万能の保険ではありません。それでも、リスクの高い症例を事前に見分け、術式の工夫や口腔外科への紹介、コロネクトミーの選択につなげられるという点で、神経近接例では有用性が広く認められています。

リスクが高い場合の選択肢:コロネクトミーという方法

CBCTで根が神経を巻き込んでいる・強く接していると判明した場合、選択肢は「慎重に抜く」だけではありません。 一つがコロネクトミー(歯冠切除術)です。トラブルの原因になりやすい歯冠(歯の頭の部分)だけを切除し、神経に接している根はあえて骨の中に残す方法で、永続的な下歯槽神経麻痺を減らす選択肢として研究が進んでいます。残した根は多くの場合問題を起こさないと報告されていますが、まれに感染したり動いて再手術が必要になったりすることがあり、適応は慎重に判断されます。 もう一つが計画的な経過観察です。症状も病変もなく、抜くリスクが利益を上回ると判断される場合には、定期的なレントゲン確認を前提に抜かずに見守る選択もあります。抜くべきかどうかの考え方は、親知らずは抜くべき?抜かなくてよいケースの基準もあわせてご覧ください。 また、神経に近い難症例は一般歯科から歯科口腔外科へ紹介されるのが一般的です。名古屋・愛知エリアでも、大学病院や総合病院の口腔外科が主な紹介先となります。

もし、しびれが出てしまったら:経過と対応

万が一、抜歯後に麻酔が切れても下唇やあごの感覚が鈍い場合は、まず抜歯を受けた医院に伝えてください。多くの一時的な麻痺は、傷ついた神経が回復するにつれて数週間〜数か月かけて改善していくとされています。経過中は、ビタミンB12製剤などの内服や、症状に応じた星状神経節ブロックなどの処置が行われることがあり、回復の様子を定期的に確認しながらのフォローが基本です。 回復の途中では、感覚が完全にない状態から、ピリピリ・ジンジンとした違和感に変わっていくことがよくあります。これは神経が回復していくサインであることも多いとされています。改善が乏しい場合には、口腔外科やペインクリニックでの専門的な評価、まれに神経の外科的修復が検討されることもあります。いずれにしても、自己判断で放置せず、経過を担当医と共有することが大切です。なお、術後の腫れや痛み・ドライソケットなど神経麻痺以外の注意点は、親知らず抜歯後の注意点とドライソケット予防で詳しく扱っています。

よくある質問

神経麻痺になったら顔が動かなくなりますか

なりません。下歯槽神経は「感覚」の神経で、表情を動かす顔面神経とは別です。起こりうるのは下唇やあごの皮膚の感覚が鈍くなる・ピリピリするという症状で、見た目や口の動きには基本的に影響しないとされています。

しびれはどのくらいで治りますか

一時的な麻痺の多くは数週間〜数か月で回復するとされています。半年以上残る永続的な麻痺は1%未満と報告されています。回復のスピードには個人差があり、神経の傷つき方の程度によって変わるため、定期的な経過確認が大切です。

CT検査は必ず受けないといけませんか

全員に必須ではありません。パノラマレントゲンで根と神経が明らかに離れていれば、追加のCTなしで抜歯できることが多いです。一方、神経との重なりが疑われる場合はCBCTでの確認が推奨されており、保険適用となる場合の追加費用は3割負担でおおむね3,500円前後が目安です。

麻酔の注射でしびれが出ることもあると聞きました

まれに、下あごの伝達麻酔(神経の近くに効かせる麻酔)の後にしびれが残ることが報告されていますが、頻度は非常に低いとされています。抜歯操作によるものと同様、多くは時間とともに回復するとされています。

神経に近いと言われました。名古屋ではどこで抜くのがよいですか

まずはかかりつけの歯科でCBCTによる評価を受けるか、対応が難しい場合は紹介状をもらって歯科口腔外科を受診する流れが一般的です。名古屋市内や愛知県内には大学病院・総合病院の口腔外科があり、中区・栄・名古屋駅周辺にもCTを備えて難抜歯に対応する歯科口腔外科標榜の医院があります。症例の難易度に応じて相談してみてください。

上の親知らずでも神経麻痺は起こりますか

下歯槽神経の麻痺は下の親知らず特有のリスクです。上の親知らずでは代わりに、鼻の横の空洞(上顎洞)と口がつながる交通や、歯が上顎洞へ迷入するなどの別の合併症がまれにあり、こちらも術前の画像評価でリスクを確認します。

まとめ

親知らずの抜歯にともなう神経麻痺は、下唇やあごの感覚が鈍くなる合併症で、一時的なものが0.5〜8%程度、半年以上残る永続的なものは1%未満と報告されています。リスクは根と下歯槽神経(下顎管)との距離で大きく変わるため、パノラマレントゲンで近接が疑われる場合に歯科用CT(CBCT)で3次元的に確認し、術式の工夫・コロネクトミー・経過観察・口腔外科への紹介といった選択につなげるのが現在の標準的な流れです。万が一しびれが出ても、多くは数か月以内に回復に向かうとされており、大切なのは経過を担当医と共有し続けることです。名古屋・愛知で「神経に近い」と言われた方は、数字だけで不安になる前に、ご自身の歯と神経の位置関係を画像で確認し、納得できる説明を受けたうえで方針を決めてください。
親知らず抜歯と神経麻痺のリスクに関するケア・予防のイメージイラスト

参考・出典

  • 公益社団法人 日本口腔外科学会「親知らずの抜歯」等の市民向け情報
  • 日本歯科放射線学会「歯科用コーンビームCTの臨床利用指針」
  • 下顎第三大臼歯抜歯後の下歯槽神経・舌神経障害の頻度に関する系統的レビュー/メタアナリシス(British Journal of Oral and Maxillofacial Surgery、Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 等)
  • コロネクトミー(歯冠切除術)と抜歯の比較に関する系統的レビュー
  • SEDENTEXCT(欧州のCBCT利用に関するエビデンスベースガイドライン)
  • NICE(英国国立医療技術評価機構)「Guidance on the extraction of wisdom teeth」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット(歯・口腔の健康に関する解説)
(注:本文の頻度・費用は範囲つきの一般的目安です。最新の報告値・保険点数は監修者が確認・更新します。)

監修:村井 亮介(DDS, MSD/米国インディアナ大学大学院 補綴科修了)
Indiana University 大学院 補綴科修了/ACP・ITI・AO・日本補綴歯科学会 会員。名古屋(中区・栄・名古屋駅エリア)を拠点に、愛知・東海地方で歯のお悩みを抱える方へ向けて情報を発信しています。理念は「10年後も削り直さない治療」。

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